鉱物コレクター用語集

 

 

蛍光鉱物コレクターの俗語・隠語(    マーク)と鉱物学の専門用語(    マーク)を紹介する

 

世界中の蛍光鉱物コレクターをかき集めても米国のコレクターの数には及ばない.

図鑑や学術誌にはまず登場しないが会話やメールではごく普通に使われる,

そんなコレクター文化を彩る米国の俗語を中心に紹介したい.

掲載されていない用語については,こちらも参照してほしい.

 

    グロウハウンド,Glowhound 

蛍光鉱物コレクターのこと.鉱物コレクター Rockhound の亜種で,光り物が好き.

 

    スピーシーズ・コレクター,Species Collector 

沢山の種類を集めるのに人生を捧げる求道者のこと.

 

    シルバーピック,Silver Pick 

石を買うために使うお金のこと.銀のツルハシは万能です.

  

    リーベライト,Leaverite

フィールドトリップでガイドに大喜びで見せたら,

「そこに戻しておきなさい(Leave 'er right there)」と冷静に言われる屑石のこと.

leave-her-right を短縮して鉱物名に見立てたもの.

 

    ラビットロック,Rabbit rock 

フィールドトリップでガイドに喜び勇んで見せたら,藪に投げ込まれる屑石のこと.

「ウサギを見たように思ったんだ」

 

    ネビュライト,Nebulite 

鉱物名や産地が分からず(nebulous),捨て鉢に名前だけつけた石のこと.

 

    キラー,KILLER

一級品のこと.

 

    スリーパー,Sleeper

目を見張る掘り出し物(A Real Treat/Steal)のこと.優れた Rockhound だけが嗅ぎ分ける. 

 

    マインラン,Mine-Run

フランクリン鉱山をはじめとして蛍光鉱物を産出する代表的な鉱山はすでに閉山している.その意味で Mine-Run dump (鉱山から掘り出されたばかりのズリ)はほぼ存在しない.Mine-Run と書かれた蛍光鉱物を見かけたら,それは,閉山前に鉱夫か誰かが直接鉱山から採掘して持ち帰ったために表面が風化していないコンディションの良い石を指す(風化した石は黒ずみ,しばしば蛍光が弱まる).辞書に出てくる「並品」の意味ではない.

 

    キャビネットサイズ,Cabinet Size

石のサイズ表記10 センチ前後の石を Cabinet と呼び,センチ以下では MiniatureToenailThumbnailMicromount の順に小さくなる.蛍光鉱物はたいてい不透明なので,透明度よりもサイズや表面積が重要だ(透明な結晶は珍重されるが,特にフランクリン鉱山の蛍光鉱物では稀にしか見つからない).僕のコレクションの多くは 15 センチを超える Large Cabinet サイズで,この大きさならではの迫力がある.

 

    フォーカラー,Four Color

一つの母岩に四つの蛍光鉱物を含む石のこと.フランクリン鉱山ではシンボリックでど派手な四つの蛍光鉱物,赤橙の Calcite,緑の Willemite,青紫の Hardystonite,橙の Clinohedrite が組み合わさり,そうした石はクラシックと銘打たれることも多い.ファイブカラーやシックスカラーは珍重されるが,一概に数が多いから美しいとは限らない.算数より審美眼が大事だ.

 

    パーカーシャフト・グループ,Parker Shaft Suite/Assemblage

パーカーシャフトはフランクリン鉱山の代表的な竪坑で,蛍光鉱物の収集が盛んになる遥か前の 1910 年に放棄されている.ここでしか見つからない蛍光鉱物も多く,MargarosaniteManganaxiniteXonotliteRoeblingiteNasoniteCharlesiteDatolitePectolitePrehniteFibrous Wollastonite 等が代表的とされる.日本国内はもちろん,米国でも極めて入手困難な鉱物群で,これらが多数寄り集まった石はパーカーシャフト・スープ等と呼ばれて目玉が飛び出るような値段で取引される.HardystoniteEsperiteClinohedrite がこのグループに分類されることもあるが,これらは他の堅坑でも見つかっており,竪坑の帰属は実際には難しいようだ.パーカーシャフト産と断定するには,1910 年以前に働いていた鉱夫が入手元であること,あるいは当時のズリから採収したことを証明する必要があるが,どちらも今となっては容易でない.今日の米国人ディーラーにとって,パーカーシャフトはもはや「希少で美しいこと」を意味するブランド名に過ぎない.

 

    ハニカム・ペクトプレナイト,Honeycomb Pecto-Prehnite

パーカーシャフト・スープの一種.Pecto-Prehnite は,Pectolite と Prehnite がいつも同居するために生まれた俗語である.二つの蛍光鉱物が稀にハニカム(蜂の巣)模様をつくる.

 

    ファンタジーロックFantasy Rock

グリーンランドの Ilimaussaq 貫入岩体(Taseq Slope)で見つかる蛍光ピンクの Tugtupite,橙の Sodalite,水色の Analcime,淡桃色の Chkalovite,緑の Natrolite の五つからなるカラフルな石.グリーンランドに足繁く通う Mark Cole が名付けた商標.

   

    サードファインド・ウラストナイト3rd-Find Wollastonite

フランクリン鉱山の Wollastonite は,MargarasoniteEsperite と並んでコレクターに愛されている.見つかった時系列順にファーストファインド,セカンドファインド,サードファインド,形質によって Fibrous(繊維状)などと分類され,バリエーション豊富だが,いずれも希少で目にすることは少ない.赤橙の Calcite と白の Barite,たまに緑の Willemite をともなうサードファインド Wollastonite はやや多産だったものの,配色バランスが良く見栄えのする標本(Wollastonite Combo IN Good Mix)はやはり少ない.分類の詳細や歴史的経緯は雑誌 Picking Table に大変詳しい.

   

    ゴールデン・スファレライト,Golden Sphalerite

蛍光灯下では橙色の結晶質で,長波紫外線下で山吹色に蛍光する Sphalerite の俗称.その美しさと希少性から,昔からコレクターに珍重されてきた.山吹色の蛍光を示す部分はしばしばスミレ色の燐光で縁取られ,二色の発光が重なってピンクやマゼンダにも見える(CIE 色度図を参照).スターリングヒル鉱山の Sphalerite は様々な蛍光パターンを示し,山吹色のゴールデン,スミレ色の Cleiophane,浅緑のグリーン,茶褐色のマホガニー,カラフルなトゥッティフルッティ等,色々な俗称が付けられている.いずれも長波紫外線でよく光り,短波紫外線で強く光るものは稀だ.SphaleriteWillemite を散りばめた石は押し並べて魅力的だが,Sphalerite はふつう長波紫外線,Willemite は短波紫外線で光るため,一つのランプで二つの鉱物の本領を発揮させることができない.稀に見つかる短波紫外線で光る Sphalerite は例外で,Willemite の強い緑の発光と相まって傑出した美しさをもつ.

 

    ウェルネル石Wernerite

長波紫外線で黄色に蛍光する柱石の古い名前.MeioniteMarialite の固溶体.カナダ産のものが安価に売られており,これを買ったあなたは良い案内人と一緒に蛍光鉱物収集の入り口に立っている.引き返してはいけない.どんどん深みにはまってゆこう.

  

    マンガン・アパタイトManganapatite

マンガンを豊富に含む Fluorapatite で黄褐色に光る.

 

    ユーパライトYooperlite

橙に蛍光する Sodalite を豊富に含む Syenite2018 年,ミシガン州でこれまで発見例のない石と判明した.ただし Syenite はもちろん,蛍光性 Sodalite も世界中で見つかっており,個々の鉱物としては新しくない.ユーパライト発見・命名のニュースは世界をかけめぐり,蛍光鉱物コレクターの間では「物知らずの馬鹿騒ぎ」とみなす意見と「久々に耳目を集める明るい出来事」と捉える意見で相半ばする事態となった.

 

    クレイジー・カルサイトCrazy calcite

フランクリン鉱山やスターリングヒル鉱山に見られる Calcite の一種で,明るい赤橙と暗い赤の二色に光る.後者はマンガンを多く含み Dolomite に近い組成をもつ.ハロウィンのジャック・オー・ランタンのように不気味な雰囲気をもつことから,クレイジーと評される.緑の Willemite を含むものもある.

 

    ウィスピー・エスペライト,Wispy Esperite

EsperiteWillemite と同程度の強い蛍光を示す希少鉱物で,主要な産地はフランクリン鉱山である.かつては Calcium Larsenite と呼ばれた.蛍光色というと僕たちは黄色をまず思い浮かべるが,鮮やかな黄色に光る鉱物は意外と少なく Esperite は黄色の代名詞だ.蛍光イエローのものから,やや緑がかった檸檬色に蛍光するものまである.Esperite とその他の蛍光鉱物が寄り集まった石,いわゆる Esperite Combo は希少かつ魅力的で,コレクター達の垂涎の的だ(Esperite はしばしば黒い Franklinite の塊と赤褐色の Zincite の斑点を伴い,これらは蛍光しない.蛍光鉱物でくまなく覆われた Esperite Combo は極めて稀で,見栄えのするファイブカラーのキャビネットサイズともなると入手はほとんど絶望的だ).Wispy EsperiteEsperite Combo の一種である.青紫の Hardystonite のなかに黄色の Esperite のかすかな筋が走った石を指し,夜空に浮かぶオーロラのような趣きがある.

 

    ベータ・ウィレマイトBeta Willemite

黄色に蛍光する WILLEMITE.緑に蛍光する通常の Willemite と比べると,結晶構造に僅かな違いがあるとされる. 

   

    SW バスタマイトSW Bustamite

BustamiteRhodonite のような見た目のピンク色の鉱物でふつう発光しないが,フランクリン鉱山産の一部は長波紫外線(LW)でチェリーレッドに光る.ごく稀に短波紫外線(SW)で深紅に光るものがあり,SW BustamiteSW Fl. Bustamite 等と略される(馴染みのコレクターいわく,Margarosanite にも増して珍しいそうだ).他のフランクリン鉱山産蛍光鉱物には見られない独特な色が珍重される.蛍光の明るさは平均的な Manganaxinite と同程度で,良質の Burning Embers Axinite には及ばない.

   

    バーニング・エンバーズ・アキシナイトBurning Embers Axinite

Axinite はふつう発光しないが,フランクリン鉱山産の一部はマンガンを豊富に含み,紅緋色に光る(Manganaxinite あるいは Axinite-Mn).Bustamite と同様,蛍光の明るさに個体差が大きく,明るいものほど高価だ.なかには Calcite と肩を並べるほど明るく光る石があり,コレクターの間で Burning Embers(熾火)に例えられる.フランクリン鉱山の蛍光性 Manganaxinite をならべて見比べられる機会など一般人には皆無であり,良い石か否かの判断は現地の目利きのディーラーに頼るしかない.

 

    圧砕ウィレマイト,Mylonitized Willemite

蛍光鉱物の世界で代表的な圧砕岩.緑の Willemite がしばしば赤橙の Calcite と共に圧砕され,両者の蛍光が組み合わさって生まれるミルフィーユ模様が美しい.Willemite は豊富な蛍光鉱物だが,Mylonitized(ミルフィーユ状)のほかに Radiating(放射状),ExsolutionWillemiteTephroite がつくるラメラ状パターン),Polka Dot(斑点),Vein(縞状),Christmas Tree 等の蛍光模様を生み,バラエティに富む.Sphalerite とともに通好みのグループだ.

 

    カリーチェCaliche

炭酸カルシウムが砂利や粘土などを接着した構造をもつ堆積岩.淡黄色にぼんやり光ることが多い.

 

    クロロフェンChlorophane

フランクリン鉱山やスターリングヒル鉱山等でみられる Fluorite の一種.青緑の蛍光と Thermoluminescence を示す.直射日光下においておくと蛍光性が弱まるため,保管に注意が必要だ.

   

    長石,Feldspar

アルミナとシリカを含むテクト珪酸塩のグループ.蛍光性 Feldspar としては,水色の Microcline や濃い赤紫の HyalophaneAlbite が有名だ.

      

    マーガローサナイトMargarosanite

淡青もしくは淡藤色に光る希産鉱物で,フランクリン鉱山とスウェーデンでのみ見つかる.フランクリン鉱山産のものは非常に希少かつ高価で,これがないとフランクリン鉱山の蛍光鉱物コレクションは完成しないとされる.傍迷惑な基準だが,コレクターに愛されている証とも言える.欠片のような小さい石が多く,見栄えのする五百グラム超の石は入手が難しい.

      

    カスピディン,Cuspidine

フランクリン鉱山の Cuspidine は短波紫外線で山吹色に光る.Margarosanite ほど人気はないが,Margarosanite より希少だと主張するコレクターは多い.この点は僕も同意する(ほとんど絶滅危惧種の RoeblingiteNasonite と比べると,幾らか見かける機会が多い).見栄えのしない欠片でも大変高価だ.

      

    フッ素燐灰石,Fluorapatite

短波紫外線で山吹色や桃色に光る.フランクリン鉱山やスターリングヒル鉱山では特に珍しくもない鉱物だが,紫外線下で明るく発光するものは良質の MARGAROSANITE や Esperite にも増して希少である.ある米国人コレクターから,2008 年頃に Mill Site で採収した標本を一つ譲って貰った.彼曰く,この二十年間に目にしたなかで価値ある蛍光性 Fluorapatite はほんの一握りだと言う.可視光下で緑色のものが多いが,一般に明るい色のもの(白っぽいもの)ほど良く光る傾向がある.

 

    アクチベータ,Activator

鉱物中に含まれる蛍光中心の一種で,蛍光の色はアクチベータとその周辺の構成元素によって決まる.このアクチベータと,光の吸収中心(アンテナ)であるセンシタイザ,そして無輻射失活等により消光するクエンチャの濃度が蛍光スペクトルの強度を左右する.

   

    連続固溶体,Solid Solution Series

よく似た構造をもつ二つの鉱物(End-member minerals)が固溶体として混じり合うことで生まれる鉱物群.End-member minerals の組成比はグラデーションのように変わるため,どちらの鉱物に近いかを基準にして鉱物を命名・同定する(50/50 rule).この 50/50 rule のため,Hyalophane は正式な鉱物名として使用されなくなった.

 

    圧砕,Mylonitization

断層深部の高温高圧下で一方向に力がくわわり,断層岩中の鉱物が化学組成はそのままに細粒化する現象.

 

    離溶,Exsolution

はじめ均一な固溶体だったものが,複数の鉱物に分離する現象.

 

    変質,ALteration

岩石が生成した後,周りの環境が変わって組成が変化する現象.Hardystonite は短波紫外線下でふつう濃い青紫に発光するが,一部にコバルトブルーの美しい発光を示すものがあり,変質または風化作用(Weathering)が原因と考えられている.フランクリン鉱山では変質作用が一因で,多様な蛍光鉱物が見つかる.

 

    鏡肌,Slickenside

断層運動の摩擦で自然に磨かれた平滑な岩石表面.断層運動の方向に無数の微細な線構造(傷跡や繊維状鉱物)がみられる場合もある.

 

    テネブレッセンス,Tenebrescence

フォトクロミズムの一種で,光照射によって鉱物が変色し,放置すると元の色に戻る現象.Hackmanite(灰色→赤紫)や Tugtupite(桃色→紅色)にみられ,これらを含むグリーンランド産の石は強い蛍光と相まって人気が高い.こちらも参照.

 

    サーモル(熱)ミネッセンス,ThermoluminescenCE

光照射の後,加熱すると発光する現象.光照射によって準安定状態に捕縛された後,熱励起をトリガーにして起きる発光.Chlorophane 等でみられる.

 

    トライボ(摩擦)ルミネッセンス,Triboluminescence

摩擦による発光現象.摩擦にともなう電荷分離と電荷再結合が原因らしい.石英や Sphalerite でみられる.



 

パワーストーンについて

 

 

僕はパワーストーンという言葉が嫌いだ.個人を攻撃する意図はないが,一般論として僕の立ち位置を書いておこう.

 

石を見ていると落ち着くとか,気力が満ちてくるという人を僕は批判しない.僕もその一人だからだ.ただ,その事実を石のパワーやエネルギー,波動,知性等で説明できたかのように取り繕う必要はないというのが僕の立場だ.簡単に分からないからこそ神秘的なものもある.なぜ特定の鉱物は特定の効用しかないと勝手に意味づけて,鉱物の世界とひいては自然界を独りよがりの世界にねじ曲げたがるのか.僕たちはただ石を見て感嘆し,ときに無心になり,人生を豊かにすればいい.

 

EVERYTHING SHOULD BE MADE AS SIMPLE AS POSSIBLE, BUT NOT SIMPLER — ALBERT EINSTEIN

 

不思議なものや難しいものは慎重に解き明かしていかなければならない.パワーや意識などの能書きで片付けることはできない(*1).これは人類が自然を理解しようと苦心惨憺するなかで,宗教的なものから漸く科学を産み出したときに獲得した姿勢であり英知だったはずだ.こういう主張をすると必ず科学は万能でないと反論する人がいるが,それは的外れだ.科学が万能でない事実は,パワーストーンを肯定する理由には全くならない.科学者は科学が万能と思っていないし,万能でないところを日々見せつけられている(むしろ,ちっぽけな人間が科学的な論理・思考にもとづいて自然を曲がりなりにも理解できる事実こそが,科学の凄みだと思う).問題は,科学より万能とひとりで思い込んでいる「自分理論」をろくな批判的検証もせずに駆使して(*2),自分のために科学を都合良く利用したり,批判したり,誇大広告をすることだ.平たく言えばそれはズルだし,そのズルは科学者にせよ消費者にせよ,どこかに犠牲者を生む.

 

最近は業者さんも科学的視点からの批判に予防線をはっている.「信じる者は救われる」という論理をつかう人もいる.パワーストーンとは精神的活動であって,科学的視点をもちこむ人には石は応えてくれないというわけだ(*3).ならば言わせてもらおう.科学っぽい言葉で偽装せず,潔く宗教だと言ってほしい.宗教家だって思考訓練を積んでいる.パワーストーンなどという宗教は吹けば飛ぶほどの存在になるだろう.金銭が根っこにあるパワーストーンの流行は,アニミズムとは今や別物なのだ.

 

波風を立てないように「私は否定しない」と言ってしまう行き方もあるが,僕はパワーストーンに No という.「存在しないとまでは科学で証明されていないから,有るかも知れないし,無いかも知れない」といった言説は一般論として正しいが,有ると信じたい人達の危うい論法にもなってしまっている(*4).また「個人が勝手に信じるなら,とやかく言うことはない」という意見もあるだろう.そこに一定の正当性があることは認める.ただし,科学にこれほど支えられながら科学リテラシーの低い国も珍しく,徒に放置すると科学への無理解や不信感をいたずらに蔓延させてしまう危険性がある.思考放棄した説明や曖昧な寛大さは,ときに無知と不公正をのさばらせる.

 



*1. パワーストーンを信じている人がいたら,自分の理屈が「風が吹けば桶屋が儲かる」のような強引なこじつけになっていないか考えてみて欲しい.たとえば,ある原因 A がある結果 B につながる可能性を 80% としよう.80% もあれば,ふつうの人はこの因果関係を疑わずに「正しい」と言うだろう.でも同様の因果関係が A ならば BB ならば CC ならば D といった具合に 5 度続くとどうだろう.最終的な結論の正当性はたったの 30% になってしまう.ラピスラズリは青い → 青いものを見ると集中力が高まる → 集中力が高まると仕事が捗る → 仕事が捗ると昇任する → 昇任すると給料が増える.ではラピスラズリは昇給するパワーを持っているのだろうか.それが本当なら,僕はアフガニスタンの知り合いからラピスラズリを 10 キロくらい取り寄せて毎日デスクで手を合わせる.「だいたい正しい」の積み重ねは危ないのだ.科学者がみな一様に慎重で,エセ科学に批判的なのはこのためだ.

*2. その多くは(たとえ検証しようとしても)占いと同じく検証すら出来ない類いの言説だ.

*3. 僕は科学の視点を持ちこみ,あまつさえ短波紫外線などという無粋なものまで石にあて,その因果応報として皮膚や目を損傷させている.

*4. エビデンスがなく存在しない可能性が高いものについて「有るかもしれないし無いかも知れない」と説明をすると,あたかも半分半分の確率で存在するかのように誤解させてしまう.想像上で良ければ,有るかも知れないものなど幾らでも作り出せる.そして,それら無数の想像物が 50% の確率で存在するかのような論法は問題があると言わざるを得ない.エビデンスがないものについては,まずは「無い」と考え,確固としたエビデンスが積み上がり仮説が検証された時点で「有る」と考え直すのが真っ当な行き方だろう.