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#00 鉱物閑話
#01 蛍光鉱物との出会い
#02 紫外線ランプを買おう
#03 蛍光鉱物の収集
#04 蛍光鉱物の魅力
#05 蛍光鉱物と色彩
#06 米国フランクリン鉱山
#07 米国スターリングヒル鉱山
#08 グリーンランド
#13 蛍光鉱物の本
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フランクリンの夜空に
ストーリーズ
#03 蛍光鉱物の収集
#03 蛍光鉱物の収集
米国にいるあいだに
着々とコレクションを拡充してきた僕だが,今後アクティブに蛍光鉱物を買い集める予定はない.帰国がひとつの理由だ.探している希少鉱物が近年滅多にマーケットに出てこないことや,買い物嫌いな性格も影響している.フランクリン鉱山の蛍光鉱物の代表格を集め終えた今,馴染みのコレクターから一級品入荷の連絡が入るのを待ちながら,ぼちぼちやっていくというのが僕の信条だ.そんな立場から蛍光鉱物の入手・収集について取りとめないことを書いてみたい.
無数にある収集分野のうち蛍光鉱物の収集は新しい部類に入り,米国では
1930
年代後半にはじまったとされる.第二次世界大戦のさなかに金属資源の効率的な採掘が必要になり,それにともなう携帯型紫外線ランプの開発が蛍光鉱物収集の普及を後押しした.山吹色に光るフランクリン鉱山産
Wollastonite
が当時は一山いくらで売られていたり,
Esperite
等の見事な名品がほんの数ドルかウィスキーボトルと交換できたという.それが
今では鉱山の閉山とズリの消失,高い人気をうけて供給不足になり,さらには一部の人の投資対象になることで価格上昇の傾向が確定的になってしまった.この傾向はとりわけフランクリン鉱山産やスターリングヒル鉱山産に顕著で,年々価格上昇している.鉱物コレクターの間でお金は
Silver pick
と呼ばれる.銀のツルハシで蛍光鉱物を楽々掘りあてるというわけだ.
こぶし大で中古車ほどの値段がする石すらあり,嫌気がさして小さな石(
*1
)に関心が移ってゆく人も多い.一部のコレクターが最果てのグリーンランドにとびだしたのも,ニュージャージーでの収集と売買に見切りをつけたからだ.古き良き
60
年代はかえってこない.今ではほとんど手に入らない素晴らしいコレクションを前にお爺ちゃん達の昔語りを聞いて,「他の趣味でもはじめてくれないかな」とあらぬ期待をしているおじさんがニュージャージーには沢山いるのだ.蛍光鉱物の世界はどきどきする美しさを秘めるとともに,お爺ちゃんのノスタルジーと投資家の懐に優しい世界でもある(
*2
).
蛍光鉱物の世界はニューカマーに厳しく,僕自身,もう少し手頃ならと思ったことは一度や二度ではない.ただし,お爺ちゃん達の時代になかった現代人の特権もある.インターネットだ.インターネットのおかげで僕らは世界のどこの鉱物へもアクセスできる.主な産地が海外にある以上,コレクションの充実に海外からの直接入手を検討しない手はない.米国では日々数千点の蛍光鉱物が売りに出されており,僕のコレクションも例外なく米国のディーラーやコレクターから購入したものだ.リンクに挙げた
FMS
推奨のディーラーや巷のオンラインショップで気に入った石を見つければ(見つかれば),入手自体は造作もない.
鉱物収集の醍醐味は採集にもある.いつかはニュージャージーに足を運び,ハンマーを振るってみたい.広大なズリで汗をかき,その不毛さに愚痴をいうなかでコレクションの有難みに気づくはずだ(
*3
).鉱物収集を趣味にし,遂にはスターリングヒル鉱山の鉱夫にまでなった男は次のように言っている.「平均的な鉱夫のコレクションはたった一握りの逸品と果物カゴに収まるほどのまずまずの石,そして
500
キロのくず石だ.マーケットに出回る石は幾多の過程で選り抜かれた逸品で,言ってみれば,
あなたは自分のコレクションとともにピラミッドのてっぺんに立っている.そのピラミッドは鉱山の地中深くからそびえ立ち,まるでファラオの奴隷たちのように無数の声なき人々によって生みだされた.地下に潜って命の危険にさらされながら鉱物採集しようなどとは考えず,迷わず
SILVER PICK
を使いなさい」
*1.
Microminerals
と呼ばれて人気がある.値段が手頃で幸いにも投資家は見向きもしない.
*2.
お爺ちゃんや親子二代のコレクションは本当にとんでもない.僕のコレクションの多くも,蛍光鉱物愛好会
FOMS
,
FMS
の著名なお爺ちゃんと親子二代のコレクターから譲り受けたものだ.フランクリン鉱山産蛍光鉱物の並品はいつでも手に入るが,一級品は入手先もタイミングも限られている.
*3.
表面すべてが蛍光鉱物に覆われている石はそれだけで珍しく,僕がたとえ一ヶ月ズリに通い詰めたところで見つからないかもしれない.泥や風化,酸化で薄汚れた石の山をまえに立ち尽くすのが関の山だ.
これから蛍光鉱物を収集される方へ
検索と収集に役立つ情報をまとめておこう.
蛍光鉱物の価格には,産地と蛍光の配色,明るさ,大きさ,結晶性,希少性,人気,コンディションが総合的に反映される.市場価値に振り回されずコツコツ収集する質の人でも,価格上昇が激しい鉱物業界にあっては価格にまったく無頓着ではいられない.複数回の取引でディーラーと信頼関係を築けば,手頃な値段で良い石を入手できる(また入荷情報をいち早く教えてもらって
Cherry-Pick
できる).一度に沢山買えば値下げ交渉しやすいのも万国共通だ.オンライン購入の場合,石の見栄えがする面だけでなく裏や側面など隅々まで写真で確認しよう.ふつうの石は向きを変えても大して印象が変わらないことが多い.一方,蛍光鉱物では石の各面がまったく違う表情を見せ,別の石かと感じることすらある.ビギナーは写真に騙されやすい(
*4
).一口に蛍光鉱物と言ってもその明るさと色は千差万別で,また水晶等に比べて実物と写真の乖離は大きくなりがちだ.一般に表面がつるりと滑らかで,白色光下で白っぽい石の蛍光は期待できる(逆に風化してざらざらし,全体的にくすんだ色の石や黒いフランクリン鉄鉱で覆われた石はあまり期待できない).産地や鉱物名のほか,蛍光に個体差が比較的小さい鉱物(
Willemite
等)を基準にして写真から石全体の蛍光の様子を想像できる.自信が無ければミネラルショー等で実物を見て購入すると良いだろう.
Free Gift
と書いたオマケをつけて発送してくれる人も多い.一度は
Willemite
と
Calcite
の
5
キロ強の塊をオマケにつけてきた人がいたが,大きすぎて帰国時に庭に置いてきた.後になって日本では高値で取引きされていると知った.カリフォルニアの庭には今も光る漬け物石が見つかるはずだ.
余談はさておき,世界的に有名なフランクリン鉱山産やスターリングヒル鉱山産が素晴らしいのは確かだ(
*5
).明るさが段違いで,他産地のものを隣にならべるとそれらが霞んで見える(次点は同率でグリーンランド産とアフガニスタン産,次いで豪州産だろうか).蛍光鉱物を鑑賞するうえで明るさは重要なファクターだ.なかでも
Willemite
,
Calcite
,
Hardystonite
,
Clinohedrite
からなるフランクリン鉱山産の石(上の画像一列目)は,四つのビビッドな色彩と明るさのバランスが絶妙で価格も比較的手頃なため,たいへん満足度が高い.真っ黒のフランクリン鉄鉱も良いアクセントになる.なお母岩についた蛍光鉱物の数によってスリーカラー,フォーカラー,ファイブプラスなどと慣用され,一般に数が多くなるほど珍重される.フランクリン鉱山産にやや劣るがグリーンランド産(上の画像の三列目右端)も明るく,この産地ならではの趣がある.氷の国の澄み切った美しさがある.ただし入手元が一人のディーラーに限られて高価だ.
べつに高い石ばかり集めなくてもよい.高いから美しいとは限らない(
*6
).上記の産地の小さな標本を集めるのも良い(
*7
).あるいは他産地へ目を向けるのも生産的だ.その場合,なるべくワット数の大きな短波紫外線ランプを購入しよう.高品質のランプは高価だが,安価な石も綺麗に光らせることができ,結果的に財布の見方になる.またフランクリン鉱山の石と他産地の石を隣り合わせに並べないようにしよう(
*8
).蛍光鉱物収集においては,お気に入りの産地を絞りこむと蛍光の明るさをおよそ揃えることができ,メリットが大きい.万華鏡のような豪州産(四列目左・中)や,銀河のようなカナダのロングレイク鉱山産(四列目右),うねうねとして生き物のようなアリゾナ州産など,産地特有の模様を楽しもう.例えばアリゾナ州の石は沢山集めると例えようもなく幻想的だ(
Glowrocks
参照).
右のグラフは,僕の蛍光鉱物の入手日と産地を整理したものだ.横軸は入手日,縦軸は主に産地に着目した分類である.縦軸の
1
と
2
はそれぞれフランクリン鉱山のクラシックな蛍光鉱物とパーカー竪坑等に固有の希産鉱物,
3
はグリーンランド産,
4
はその他だ.僕の関心の移り変わりが一目で分かる.
2014
年の春にフランクリン鉱山のきらびやかな蛍光鉱物に魅せられて収集をはじめ,一年ほど色々な産地に目移りしたものの,結局は原点回帰して今に至る.おそらく今後,フランクリン鉱山産以外は入手しないだろう.アリゾナ州産から収集していれば,あるいは上記のようなアドバイスを貰っていれば違ったグラフになったかもしれない.これを読んでいるあなたの収集歴は将来どんなグラフになるだろう.
*4.
青紫の
Hardystonite
は
eBay Blue
と呼ばれて悪名高い.たいへん美しく僕の一番好きな蛍光鉱物といってもよいが,
Calcite
の赤橙よりもやや暗い.不誠実な売り手は露出オーバーの真っ青な写真を
eBay
にあげて,ひんしゅくを買っている.
*5.
そして概して価格も高い.
*6.
希少性だけが理由で高価な石を僕は購入しない.例えば山吹色に光る
Cuspidine
は希少で珍重される.現物を見たことがなく
Cuspidine
そのものの美しさは判断しかねるが,苔のように表面にへばりついた形状で,全体の配色の美しい石が少ないため入手に至っていない.収集家としては失格かもしれない.
*7.
小さな標本でも魅力的な標本棚
は作れる
.
加藤水槽さん
は良い例だ.
*8.
他産地の石が映えない.グリーンランドに足繁く通う
M. Cole
も,標本棚では並べ方が重要と指摘している.フランクリンの派手な緑や赤に食傷したら他産地の石も見たくなるとのことだ.
Ultraviolet Light and Fluorescent Minerals
(
T. S. Warren
ら著)のように並べ方を指南する本もある.
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