#02 紫外線ランプを買おう

右の写真の石を見せられたとき,普通の人は「きっと綺麗に光るだろうな」とは思わない.紫外線ランプが必要だ.

ランプを使わないと光らないとも言えるが,ランプの人工的な紫外線を目にしているわけではない.紫外線は人の目に見えないから,暗やみでいくら綺麗な水晶に紫外線をあてたところで,やっぱり暗やみのままだ.紫外線下で光る(=可視光を出す)のは蛍光鉱物ならではの特性である.太陽や蛍光灯の下では白い石ころにしか見えない蛍光鉱物に紫外線をあてるとそのエネルギーを吸収し,暗やみで様々な色に自ら発光(蛍光・燐光 *1)する(*2).太陽光が紫外線をほとんど含まないからこそ秘められた世界だ.そう,蛍光鉱物の世界に踏みいるには紫外線ランプというパスポートが必要なのだ.一体誰が最初に石ころに紫外線をあててみようと思ったのだろう.「ランプを持たない奴らはお宝の上を何も知らずに歩いている」と言って蛍光鉱物コレクターは笑っている.


蛍光鉱物に興味がある人は,まずは試しに短波紫外線の出る小さなランプを買ってみて欲しい.世の中のおよそ 85% の蛍光鉱物は短波紫外線で光る.ワット数が小さいと強い紫外線と明るい蛍光は期待できないが,(光の強さには逆二乗則があり)ランプと石を近づけるほど明るい蛍光が見られるはずだ.そしてそれが高いランプを買ったときの蛍光と思って良い.二つ目のランプは奮発して 10 ワットを超えるものがいい.可視光をカットするフィルターが良質ならなお良く,また短波・長波紫外線をどちらも出力できるランプもある.高品質のランプは安価な石も綺麗に光らせることができ,楽しみの幅が広がる.僕は UV SYSTEMS 社の SUPERBRIGHT 3 を使っている.定評があるだけあって携帯性も明るさも抜群だ.

なお短波紫外線は目に直接あてないよう注意したい.

 



*1. 蛍光と違って,燐光では(相対論効果による系間交差を経るために)一般に寿命が長い.ランプをオフにしてからも暫く光っており,俗に蓄光と呼ばれる.グリーンランド産など一部の鉱物で蛍光・燐光の双方を見ることができる.

*2. さまざまな色に光るのは,専門用語でいえば,ストークス・シフトの大きさが鉱物やアクチベータによって違うからだ.蛍光灯がどういうメカニズムで光るかご存じだろうか.蛍光灯の中身(水銀ガス)が光っているわけではない.水銀は目に見えない紫外線を発しており,それがガラス管に塗布された蛍光物質に一旦吸収されて,その発光を見ているわけだ.考えてみれば僕が蛍光鉱物に紫外線をあてるのも,石ころをつかって蛍光灯を再現しているようなものだ.類似のアイデアは有機 ELLED,シンチレータ等で手を変え品を変え応用されて,身の回りにあふれている.