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ストーリーズ
#00 鉱物閑話
#01 蛍光鉱物との出会い
#02 紫外線ランプを買おう
#03 蛍光鉱物の収集
#04 蛍光鉱物の魅力
#05 蛍光鉱物と色彩
#06 米国フランクリン鉱山
#07 米国スターリングヒル鉱山
#08 グリーンランド
#13 蛍光鉱物の本
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フランクリンの夜空に
ストーリーズ
#04 蛍光鉱物の魅力
#04 蛍光鉱物の魅力
なぜ蛍光鉱物に心惹かれるのだろう.
「これって人工ですよね? 色を塗ったの?」
蛍光鉱物をはじめて見た人によくある反応だ.ここに冒頭の問いかけへの答えがあるように思う.鉱物はほんとうに多種多様で,手のひらで観察できる自然界のミニチュアだ.周期表の元素から生み出される無限の組み合わせから,思いもよらない自然の美に僕らは出会う.そうした経験を重ねて鉱物コレクターは次第に鉱物界の「常識」を身につけてゆく.それでもなお,僕らは蛍光鉱物をみると美しいと感じるまえに「どこか変だ」と感じてしまう.放射能を心配する人もいる(ほとんどの蛍光鉱物は放射性物質を含まない).発光への驚きとともに,これほど多数の原色が一つの石ころにあふれているのは普通じゃないと本能的に思うのかもしれない.蛍光鉱物を収集してきた僕にもこの素朴な感覚はぬぐい去れないらしく,蛍光鉱物に紫外線ランプをあてるたびに新たな驚きがある.蛍光鉱物は言うまでもなく自然の造形物だが,その鮮やかさとカラーバリエーションはどこか自然でない.神秘性や驚きの源はこのあたりにあるのだろう.
ふつうの石を見るとき,僕らは白色光(蛍光灯)下で石からの反射光や透過光を目にしている.たとえば綺麗な青を石が発色するには,石の内部か表面で青を除く可視光の大半を吸収し尽くす必要がある.大ざっぱにいうと,石の内部が吸収するケースは他色と呼ばれる発色メカニズムで,その色は石を構成するたった一握りのマイノリティ(不純物)が決定する.石の表面が吸収するケースは自色と呼ばれ,その色はおおむねマジョリティ(鉱物全体)が決定する.自色が青い鉱物は主に黄色の光を吸収する物質の塊である.では蛍光鉱物はどうか.蛍光鉱物を観察するとき,僕たちは紫外線下での発光を目にしている.その色は多くの場合,マイノリティであるアクチベータとその周りの環境によって決まる.たとえ同じアクチベータでも,異なる鉱物に含まれることで様々な色がうまれる.鉱物の成因について僕はよく知らないので確たることはいえないが,マジョリティが色を決める自色よりも,マイノリティが色を決める他色や蛍光のほうが自然界ではカラフルな石を生みだしやすいのかもしれない(
*1
).例えばトルマリンの他色は写真のように素晴らしい虹色だ.なおオパールの遊色や鱗鉄鉱の玉虫色は回折光・反射光の干渉に起因し,上述のような組成の違いと無関係な構造色だ.
私見に過ぎないが,蛍光鉱物の魅力は多種の蛍光鉱物が寄り集まった姿にあると感じている(
*2
).氷結した花火と表現した人もいる.蛍光鉱物コレクターである
Chris
の言葉が過激で面白いので,最後に紹介しておこう.
「ゴールドなんてくだらない.ただの一色・一元素の塊だ.しかも発光すらしない!
ダイヤなんて忘れてしまえ.ただの炭素だ.でもな,どっちも売り払ってしまえば
価値ある蛍光鉱物を買えるという意味では無駄じゃない」
他のコレクターとくらべて,彼のコレクションがそれほど傑出しているとは思わない.それでもウェブサイトの一文一文に,蛍光鉱物と地元ニュージャージーへの愛情を感じる.それはこれまでも,そしてこれからも僕が本当の意味で理解することのない境地なのかも知れない.
*1.
このような違いは,鉱物の成り立ちを横に置いては理解できない.マイノリティとマジョリティのどちらが色を決めるかは(大ざっぱにいって)不純物・欠陥準位とバンドギャップのどちらが重要かの違いでしかなく,実験室ではどちらの方式でも多彩な色を生みだせる(有機化合物なら共役系の大きさ,遷移金属錯体なら配位子場を制御して色を調整できる).地球の内部と実験室では根本的に環境が違うはずで,鉱物を議論する上でその地質学的成因を考慮することは本質的だろう.本文
*1
の推論は,鉱物についてずぶの素人が自分の専門分野の切り口で思い巡らせたものに過ぎないことを付記しておく(砂川一郎 氏の「ダイヤモンドのおいたち」をななめ読みした後,僕の推論は的外れでないと思うようになったが,それでも念のためこの点を指摘しておきたい).
*2.
これが理由で,
Sheelite
や蛍石の結晶の魅力に気づきながらも入手に至っていない.単色の発光なら,極言すれば水晶をライトアップしても再現でき,組み合わせの妙に欠けるように感じる.
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